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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)47号 判決

原告

加藤かな子

被告

相互クリーナー株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金一二、〇〇〇円及びこれに対する昭和四五年一二月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇〇分しその三を被告らの、その余を原告の各負担とする。

事実

第一当事者の申立てた裁判

一  原告

被告らは各自原告に対し金五七九、九六四円及びこれに対する昭和四五年一二月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

原告が、昭和四五年一二月九日午前八時二〇分頃、普通乗用自動車を運転して名古屋市千種区都通り一丁目一三番地先の信号機の設置されている交差点を北から南に向つて通過しようとしたが、進路前方の信号が赤信号であつたので同信号に従つて停車したところ、被告富田の運転する自家用乗用車(名古屋五一す四四五七号)が原告車に追突した。

右事故のため原告は外傷性頭頸部症候群並びに顔面挫傷等の傷害を受けた。

二  被告らの帰責事由

右追突事故は被告富田の前方不注視の過失によるものであるから、同被告は不法行為者として民法七〇九条の責任がある。

また、被告富田は被告会社の従業員で同会社の業務執行中に本件事故を起したのであり、しかも被告富田の運転していた前記車両は被告会社の保有するものであるから、被告会社は被告富田の使用者として、また自賠法三条の運行供用者として本件事故による損害を賠償する責任がある。

三  原告の損害

前記傷害も然ることながら、原告は本件事故の際における急激な打撲により半脱臼による急性歯髄炎になり、昭和四五年一二月二六日名古屋市千種区末盛通り中久木歯科医院で予診を受けたが、その後昭和四六年一二月七日から同四七年八月二六日まで右歯科医院で歯髄炎の治療を受けた(通院実日数五四日)。

(一)  治療関係の損害 金三一一、二四〇円

(イ) 治療費 金三〇八、〇〇〇円

(ロ) 通院交通費 金三、二四〇円

(二)  慰藉料 金二〇〇、〇〇〇円

(三)  眼鏡代 金一六、〇〇〇円

(四)  弁護士費用 金五二、七二四円

四  結論

そこで、原告は被告に対し金五七九、九六四円及びこれに対する本件事故の日である昭和四五年一二月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三被告らの答弁

一  請求原因一項の事実中、原告の傷害の点は知らないが、その余の事実を認める。

二  同二項中、被告富田に原告主張のような過失があつたこと、被告富田が被告会社の従業員であること、被告会社が原告主張の加害車両の保有者であることはいずれも認めるが、本件事故が被告富田の被告会社業務執行中に起きたとの点は否認する。

三  同三項の損害は知らない。

ことに、原告の歯科治療なるものは大部分本件事故との因果関係は存しない。

第四証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

原告主張の日時・場所において、被告富田の運転する自家用乗用自動車(名古屋五一す四四五七号)が原告の運転する普通乗用自動車に追突したことは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いない甲第四号証及び原告本人の供述によれば右事故のため原告が外傷性頭頸部症候群、顔面挫傷の傷害を受けたことが認められる。

二  被告らの帰責事由

右事故が被告富田の前方不注視の過失に因るものであることは当事者間に争いがない。

被告富田が被告会社の従業員であること及び被告会社が前記加害車両の保有者であることも当事者間に争いがなく、前記被告富田の過失と相俟つて判断すると、特段の事由のないかぎり被告会社は被告富田の使用者として、又前記加害車両の運行供用者として損害賠償をする責任がある。

三  原告の損害

(一)  成立に争いない甲第一号証、同第二号証、同第四号証、乙第二号証の一ないし四、証人中久木典子の証言及び原告本人の供述を綜合すると、原告が前記事故の際にハンドルで顔面を打ち、前記傷害のほかに半脱臼による急性歯膜炎の傷害をも受けたこと、事故後昭和四五年一二月二六日に原告は右歯の損傷について中久木歯科医院で予診を受けたが、そのまま約一年間近く治療を受けなかつたこと、その後昭和四六年一二月七日から同四七年八月二八日の間に右歯科医院で本件事故前における歯患に対する治療を含むかなり抜本的な治療を受けたこと、すなわち原告には右上第二、第三歯、左上第三歯の軽度のカリエス、左上第二歯の神経摘出を要する歯髄炎を伴つたカリエス、右下第四歯の既に神経を除去した歯根炎を伴つたカリエス、右下第五歯の抜歯を要する歯槽膿漏があり、さらに右下第六、七歯、左下第六、七歯とも欠損しているなど本件事故と直接因果関係の認められない歯の損傷があり、これらの歯患のほか金属冠をかぶせた歯、もしくはブリツヂをした歯が計一〇数本もあり、これらの歯患並びに歯に対するかなり抜本的な治療、処置を受け、その治療費、処置料を含めて原告が金三〇八、〇〇〇円を出捐したことが認められる。

しかしながら、前掲各証拠によれば右金三〇八、〇〇〇円の治療費、処置料がすべて本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできず、しかも右証拠を精査しても本件事故による歯の損傷の部位、程度が必ずしも明確でなく、またその損傷が本件事故から約一年間近く経過した時点においてどの程度の治療が必要であつたかについてもこれを明らかにする資料がない。

したがつて、右金三〇八、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認められないのは勿論、そのうちどれだけが本件事故と相当因果関係のある損害かについても容易に判定ができない。結局において原告の歯に対する損害は立証がないことに帰着し、認容できない。

つぎに歯の治療に対する通院交通費についても前段指摘の事情にかんがみ、本件事故と相当因果関係のある損害額を認定することは困難である。

(二)  慰藉料について

弁論の趣旨からみて原告は歯の損傷に対する慰藉料を請求しているものと判断されるが、前記のように本件事故による歯の損傷の部位、程度、要治療の程度、要治療期間等について、これを明確にする資料がないので、本慰藉料についても算定の仕様がない。

(三)  眼鏡代

原告本人の供述並びにこれによつて成立の認められる甲第六号証によれば、原告が本件事故によつて眼鏡を破損し金一二、〇〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。

(四)  弁護士費用

前記のとおり損害認容額が余りにも低額であり、原告の本訴請求についても立証上問題があるので、本訴提起に伴う弁護士費用の損害としてあえて計上する必要を認めない。

四  結論

以上のとおり、被告らは各自原告に対し金一二、〇〇〇円及びこれに対する昭和四五年一二月九日(本件事故の日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 至勢忠一)

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